国産バルーン開発の歴史

テルモ株式会社
執筆者:テルモ株式会社心臓血管カンパニーTIS事業R&D部門
関野真樹

テルモの歴史

1977年にGruentzig先生によって、世界最初のPTCAが行われた。その後、米国や日本においてもPTCAが施行されていった。使用される治療器具は、米国を中心とする海外メーカーのデバイスが使用されていた。
海外メーカーに遅れをとるものの、テルモも新しい領域に参入することを決断し、国産初のバルーン開発を進めていくことになった。1980年代後半よりPTCAバルーンの開発を開始し、アンプラスト-C®バルーンカテーテル(Overthewireタイプ以降OTW)を完成させ、国産メーカーとして初めての国内臨床評価を実施、施設限定販売を開始した。
1995年には、プッシャビリティを向上させるため、手元側から螺旋カットされた金属管をコアに搭載したコンプライアントバルーンのStenoforcus®NT(OTW)(図1、2)を開発し、国内へ販売を開始した。


図1Stenoforcus®NT


図2Stenoforcus®NTバルーンカテーテル

その後、病変への通過性を向上させるため、バルーン素材の開発に着手し、3層構造のPET素材を採用したノンコンプライアントバルーンのBlizzard®(OTW)、Tsurugi®(RapidExchangeタイプ以降RX)を開発し、本格的に心臓の治療領域に参入していった。また、屈曲した血管内での摩擦抵抗を下げる目的で、親水性コーティング材料を開発し、Blizzard®Mを市場へ投入、親水性コーティングの臨床での重要性が明らかになり、その後に開発される製品へ搭載されるようになった。
この当時のバルーンカテーテルの公定価格は約28万円であったが、製造原価は高く、また大量生産が必要になるまでの市場評価は得られていないのが課題であった。この現実を打破するために、競合製品のベンチマークを徹底的に行い、市場で評価されている製品のどこが優れているのかを分析した。バルーンカテーテルの要求特性を分解し、その特性を向上させるための技術開発を追求していった。その成果として、1998年に、バルーン素材に柔軟性と強度を併せ持つポリアミド素材を採用した。病変狭窄部への通過性を向上させるため、先端チップの材料も改良し、細く、且つ柔らかくするために、従来の接着加工から融着加工に進化(図3)させ、テルモ初のセミコンプライアントバルーンHayate®(RX)(図4)を開発した。これにより、国産のテルモバルーンの認知度は急速に広がった。


図3 接着加工(Blizzard®) 先端チップ加工の進化 融着加工(Hayate®)

図4Hayate®

2000年には、カテーテルシャフトの細径化を目的に、手元側シャフトの素材を金属にしたArashi®(RX)を開発した。しなやかなシャフトを好む術者と、バネ性のあるシャフトを好む術者が存在していることが調査より把握できたため、日本のメーカーらしく、両者のニーズに合わせた2つのセミコンバルーンを開発した。
その後、世界で初めてとなる、1.25mm径の細径バルーンを開発、Hayate®の後継として、Hayate®Proを市場へ投入していった。
これと同時期にガイドワイヤーの操作性を向上させたTempest®(OTW)を開発、高度狭窄病変用のワイヤーサポートを兼ね備えたバルーンカテーテルを投入した。市場の評価を確認しながら、ワイヤーのフリクションを低減するため、素材や構造を改良し続けた。
2000年以降になると、PCIの環境もさらに変化し、ガイディングカテーテルのダウンサイジング、トランスラディアルアプローチ(TRI)が急速に普及、さらには分岐部病変の治療においては、同時に2本のバルーンを挿入することもあり、バルーンカテーテルの要求特性も徐々に変化していった。
2002年には、石灰化病変への対応、ステント留置後のポストバルーンで使用される、バルーン素材に硬めのポリアミド素材を採用したRBP20atmの高耐圧バルーンKongou®(RX)を開発、2003年には、先端伝達性を向上させるため、先端側シャフトに螺旋状の溝加工を施し、また6Frガイディングカテーテル下でのKissing
balloonTechnique(以下、KBT)に対応できるシャフトを採用したRyujin®(RX)を開発した。さらに、血管内の追従性や病変への潜り込みやすさを向上させるため、先端チップを別素材にし、細さと柔らかさ、そして壊れにくさを追求していった。
2004年には、高度狭窄病変への対応力をさらに向上させるため、バルーンのアコーディオン現象を抑える構造を採用、またバルーンデフレーション後のバルーン形状の細径化を狙ったラッピング技術を開発し、様々な使用シチュエーションを想定した設計にて、ユーザビリティ向上を追求していった。サイズラインナップもバルーン長40mmまで品揃えをし、ワーキングレンジを広くしたRyujin®Plus(RX)を開発、MadeinJapanの技術力と高い品質力は、日本のみならず海外でも高い評価を獲得した。
2005年には、ガイドワイヤーを通すインナーシャフトの素材を改良し、さらにガイドワイヤー操作性を向上させたRyujin®PlusOTWを開発した。日本のPC治療は、世界の最先端を走っているため、高度狭窄病変への治療戦略もさらに進化しており、コラテラルを利用したレトログレードアプローチが施行されるようになっていた。これに伴い、術者からの要望にて、カテーテル有効長148cmの品揃えをし、レトログレードアプローチ時のセプタルダイラテーションとして新たな治療法に貢献することになった。
一方、OTWの使用比率は、簡便にカテーテル交換が可能なRXに切り替わってきており、また、ワイヤー操作をサポートするマイクロカテーテル(Finecross®など)の台頭により、各社ともRXをメインに開発するようになった。
市場変化と臨床課題への
取り組み
セミコンプライアントバルーンの通過性向上の一方で、何度も拡張される高耐圧バルーンの通過性には課題があり、技術的にもバルーンの膜強度と相反する柔軟性の両立は難易度が高いものがあった。また、バルーンカテーテルの使用本数にも制限があり、医療経済性の観点からも、同一症例で複数本のバルーンカテーテルを使用しにくい環境になっていた。
そのような環境下でも使いやすいバルーンを提供していきたいという想いで、2007年にプレ拡張でも、ポスト拡張でも使用できる新しいコンセプトのHiryu®(RX)を開発。バルーンの層構造を改良し、柔軟でありながら、RBP20atmを達成できる素材を開発、また、Ryujin®Plus(RX)で開発したラッピング技術を採用し、より使いやすい高耐圧バルーンとして市場に受け入れられた。フォーカルな病変やスポットで拡張したい場面などで、最も短い6mm長のサイズラインナップも加えた。開発をスタートさせてから約20年、チャレンジし続けた結果、日本国内に於いて、国産メーカーのバルーンカテーテルが最も使用されるようになった。
Ryujin®Plus(RX)の後継としては、さらなる摩擦抵抗の低減を追求し、血管内をよりスムーズに進むことを目指した、トラッカブルバルーンTazuna®(RX)(図5)を2009年に開発した。細径品種の1.25mmから汎用サイズの3.0mmまで、この使いやすさは国内外の術者から高い評価を頂いた。


図5Tazuna®

ガイディングカテーテルへの適応サイズにも拘り、カテーテルの細径化と摩擦抵抗の低減により、4Fr.でも適応可能な設計とし、低侵襲な治療戦略の場や、体の小さな患者様の治療の場においても、使用しやすくなり、使うシチュエーションを選ばないバルーンカテーテルを追求していった。
さらに、和の商品名だけでなく、日本を全面に出したパッケージは、海外の医療従事者からも好評であった。
日本の技術力と臨床価値に拘り続ける通過性の良い高耐圧バルーンとして開発したHiryu®であるが、臨床での限界と、さらなる価値を創出するため、チャレンジが必要であり、バルーン素材と構造をゼロベースで考え、さらに柔らかく、膜強度を持たせた新素材を開発(図6)することができた。


図6新素材バルーン

また、先端チップやリラップ技術(図7)、バルーンショルダー長(図8)など細部に至るまで拘り続け、2013年にHiryu®Plusを完成させた。より患者様の血管に優しく、術者のユーザービリティを改善していきたいという想いで開発を行った。
さらに、Hiryu®Plusの技術を採用した、RBP20atmの高圧が掛けられる1.25mm径サイズのHiryu®iBを開発。高度石灰化て、セミコンプライアントバルーンでは拡張しきれず、インデンテーションが獲得できない病変で使用されている。難症例が比較的多い、日本ならではのバルーンカテーテルである。


図7 Kongou®/Hiryu®Plus 拡張後のバルーンリラップ状態

高度狭窄病変を積極的に治療する日本においては、バルーンカテーテルが狭窄病変を通過しないケースがしばしばある。近年、PCIガイドワイヤーの進化と術者のテクニックの向上、診断機器を活用した治療戦略などにより、難症例であってもワイヤーが病変を通過することがほとんどである。従って、より厳しい病変環境でのバルーンカテーテルの通過性能がより求められている。Tazuna®の細径品種含め、他メーカーのバルーンカテーテルも通過できない症例が存在している状況であり、また高度狭窄病変の治療は、患者様の予後を改善することが示されているため、難症例での通過性能をより向上させ、且つバルーンラプチャーしにくいバルーンカテーテルが要求されている。
病変を通過させるための1つの要素として、先端のプロファイル径が重要になっているため、1.0mm径の細径品種を揃え、より手元の力を効率よく伝えるシャフト構造に改良された新しいセミコンプライアントバルーンRyurei®(図9、10)を2018年に完成させた。ロングステント時代にも対応できるよう、バルーン長40mmまでサイズラインナップを増やし、Tazuna®以上に使うシチュエーションを選ばないバルーンカテーテルを追求した。デイリーユースからComplex病変まで、幅広く活躍できることを願っている。


図9Ryurei®


図10Ryurei®

おわりに

国産メーカーであるテルモが日本国内のみならず、海外の先生方にも評価されるまでに成長できたのは、Stenoforcus®NT販売以前から、約30年間テルモのバルーンを支え続けていただいた、多くの先生方のお陰と感謝しております。誠に恐縮ではございますが、本紙面を借りて深く御礼申し上げます。
日本のモノ作りを大切にし、匠の技術と高い品質への拘りを持って、今後も先生方のお役に立てるよう、医療の発展に貢献できるよう、一層のチャレンジをして参りますので、引き続き、ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

OnePointComment│横井宏佳(福岡山王病院循環器センター)

私がPCIを初めた90年代初めバルーンはすべて30万円以上する高価な外国製のものだった。この壁を乗り越えようと、国産初の冠動脈拡張用バルーン開発に挑戦したのがテルモ社だった。プロトタイプは外国製に比べるとお世辞にも格好良いものではなく、病変通過性は悪く、工場、開発の方が何度も厳しい指導を受けていた。その後、テルモ社はへこたれることなく、愚直に現場のカテーテル医のニーズを聞き、改良を続け、患者さんのためにより良い安全なバルーンを求めてイノベーションを続けてきた。本稿の国産バルーン開発の歴史には開発者、工場のエンジニアの方々の汗と涙の結晶が含まれており、モノづくり日本の真髄が語られている。医療現場と共に作り込んだテルモのバルーンは、世界に誇れる技術と信頼のおける品質で、日本だけでなく世界へ発信されている。グローバルに認知されているJAPANQUALITYを、医療機器の分野でさらに浸透させて欲しい。