安定狭心症に対するPCIの虚血評価が義務化 〜カギを握るのはFFR

 2018年4月、診療報酬改定に伴い安定狭心症の保険算定要件が変更され、術前の機能的虚血評価が必須となった。また各要件においても、虚血評価の重要性が見られる。高齢者の増加している現状もあり、適切なPCIを行うためにはFFRによる虚血評価が最も有効だと松尾仁司氏(岐阜ハートセンター)は語る。PCIに虚血評価が必要な理由や、FFRのトレンドについて、横井宏佳氏(福岡山王病院)とともにお話し頂いた。

安定狭心症に対する虚血評価がPCIの保険算定要件に

横井 本日は、近年広まりつつある概念「Physiological PCI」(生理学的情報に基づいた冠動脈インターベンションの適応決定)についてお話ししていきます。2018年4月の診療報酬改定で「安定狭心症」に対する保険算定要件が変わりました。従来は、安定狭心症であっても一方向からの造影で75%以上の狭窄が認められれば算定されましたが、新たに機能的虚血診断が保険算定に義務づけられました。その背景には、米国でAUC(Appropriate Use Criteria)が導入されて非急性期の不適切なPCIが減少し、安定狭心症に対するPCIが適正化されたことがあります。しかし、日本において緊急PCIは全体の15%であり、85%が安定狭心症に対する待機的PCIとなっています。

松尾 海外では緊急PCIが圧倒的に多く、日本は全く逆転していますね。

横井 日本版AUCの必要性が指摘されていますが、これまでは虚血評価がきちんとなされている例は3割ほどしかありませんでした。今回、算定要件の変更が早いペースで動いたという印象ですが、岐阜ハートセンターでは改定以降、対応がわった点はありますか。

松尾 当院では算定要件変更前から、虚血の有無が予後を規定する重要な因子だと考え、PCIは虚血のあるケースには多大なベネフィットをもたらすものの、虚血がない場合はメリットがないということを前提に症例をセレクションしてきました。現在、虚血診断のために最善の機能的評価法を模索している段階です。

「見た目」の狭窄度とFFRによる虚血評価は必ずしも一致しない

横井 今回変更になった算定要件では、「ア:90%以上の狭窄病変」と「イ:安定労作性狭心症の原因と考えられる狭窄病変(他に有意狭窄病変が認められない場合に限る)」と「ウ:機能的虚血の評価のための検査を実施し、機能的虚血の原因と確認されている狭窄病変」のいずれかの要件を満たした場合とされていますが、厚労省が最も重きを置いているのは「ウ」です。つまり、機能的虚血の評価を行った上でPCIを行うということです。メインはあくまでも「ウ」であり、これだけに絞ってスタートさせようという心積もりだったようです。しかし、現場が混乱する恐れもあるということで「ア」と「イ」が入ったと聞いています。まず、「ア」は90%以上の高度狭窄であれば虚血評価をしなくともPCIを行うのが妥当だとの考えに基づいています。ただ、この90%という指標も術者によって所見の読み方が異なります。

松尾 たしかに、90%以上の狭窄という視覚的判定にはバラツキもあります。狭窄度を「見た目」だけで判断するのはきわめて難しいのです。ある方向から見ると90%の狭窄でも、別の方向から見れば50%の狭窄という場合もあります。それも90%と判定してしまうと、過剰診断により不適切なPCIが行われる可能性もあるので、FFR(心筋血流予備量比)のように客観的な指標を採用する必要があるでしょう。当院では狭窄が90%以上であってもFFR計測を行いますし、それでPCIがネガティブになるケースもあります。

横井 90%以上の狭窄に見えてもFFRでネガティブとなるケースは、右冠動脈とか左回旋枝などの狭窄が多いのでしょうか。

松尾 日本心血管インターベンション治療学会が2012年から行ってきたCVITDEFER registryにおいて血管造影上の狭窄の程度とFFR計測結果にはミスマッチがあることが明らかにされています。右冠動脈と左回旋枝では血管造影上で75%の狭窄と判断された病変のうち65%以上はFFRが0.8を超えていました。一方、左前下行枝では血管造影上50%の狭窄と判断された病変の33.4%がFFRは0.8以下だったというリバースミスマッチも示されています。50%程度の軽い狭窄に見えてもプレッシャーワイヤー(PW)で計測すると陽性というケースもありますし、見た目の判断とPWによる診断が食い違うことは少なからずあります。

FFRによる虚血評価からPCIのアウトカムを予測する

横井 海外におけるFFRのエビデンスは、40~70%の中等度狭窄に対してスタディが計画されているものが多いと思います。高度狭窄に対してFFRは強くリコメンドされないという理解でよいのでしょうか。

松尾 たしかに、欧米など海外のガイドラインは中等度狭窄に対してのものになっています。ただ、FAME試験、SYNTAX-Ⅱ試験などでは高度狭窄にもFFRが適用されており、90%以上の高度狭窄でも10%程度はFFR陰性だったというデータも出ています。2017年のAUCでは3枝病変のシナリオにおいてはFFRは言及されていませんが、SYNTAX-Ⅱ試験の結果から、いずれは3枝病変を含む複雑病変に対してもFFR計測が推奨されるようになるのではないかと思います。

横井 次に算定要件の「イ」についてですが、ここでは狭窄度については触れられていません。単に病変が1か所であればPCIの適応だとしています。ここが最もファジーです。病変が1か所あったとしてもそれが必ずしも狭心症だとは限りません。ORBITA試験では、虚血と狭心症の関係は一対一ではないと指摘されました。先生はORBITA試験についてどう解釈しておられますか。

松尾 ORBITA試験では、安定狭心症のPCIに対してダブルブラインドで偽手技がコントロール群に用いられましたが、その結果は驚くべきものでした。対象は重症の1枝疾患に限定されていますが、両群間で運動耐用能に有意差は認められなかったのです。つまり、薬物療法とPCIで効果に大きな違いはない可能性があるわけです。また、EUROPCR2018ではORBITA試験の層別解析の結果として、安定狭心症の1枝病変患者においてベースラインのFFR/iFR(瞬時血流予備量比)が低く生理学的な虚血の強い病変ほど、プラセボ手技と比較してPCI群の方が負荷エコーでの壁運動の改善の程度が大きいことが発表されました。しかし、FFR/iFRがあまり低くない軽症の虚血、もしくは虚血のない病変に対してはPCIでも薬物療法でも効果に全く違いがなく、やはり虚血評価の重要性が示されたわけです。

横井 症状が1か所しかない「イ」の病変でも本来は虚血評価をきちんと行いインターベンションの適応を決めるべきですね。

松尾 1枝病変の中等度狭窄でも虚血の有無で重症度を決めるべきですし、ステント留置によるメリットとデメリットもきちんと考える必要があります。

横井 おっしゃるとおりです。頻度は減ったとはいえステント血栓症のリスクもゼロではありません。また、PCI後の出血が予後に影響することも最近明らかになってきています。いずれにしても、生理学的な虚血評価によりPCIの適応を決めることは重要です。これまでわれわれはPCIに対して狭窄した血管を広げる治療というイメージを持ってきたわけですが、実は虚血を解除する治療であると理解すべきだと思います。

松尾 全く同感です。

横井 虚血評価についてですが、今回の改定では算定要件に何の検査がそれに該当するかは明記されていません。想定されているのは負荷心電図、負荷心エコー、心筋シンチ、FFRなどだと思いますが、近年高齢者が増え、運動負荷試験のリスクも考慮する必要がありますね。

松尾 当院で行っているのは負荷マスターダブル、トレッドミル負荷試験、負荷心筋SPECTです。外来でフォローする際はマスターダブルを中心に、半年あるいは1年に一度トレッドミルを行うという例が一般的です。負荷心筋SPECTは腎機能が悪くて、カテーテル検査やCTは極力避けたい方を中心に使います。結局、これらの検査は狭窄を見つけるために行うというよりも、予後を担保するためのモダリティと位置づけており、カテ室へのゲートキーパーの役割ととらえています。

横井 負荷心エコーは当院でもあまりやっていませんが、全国的にも普及していないのでしょうか。

松尾 日本では虚血診断に負荷心エコーを使っている施設は少ないのではないかと思います。

横井 いずれにしても、PCIの適正化のためにはFFRによる虚血評価が最も有効だという理解でよいですか。

松尾 そう思います。

横井 虚血診断ツールの中でも、FFRの役割は別格と位置づけた方がいいですね。

松尾 そうですね。最近は心臓CTデータを基にFFRが仮想的に算出されるFFRCTも登場し、非侵襲的に冠予備能を評価できるようになりましたが、FFRのデータと完全に一致するわけではありません。FFRCTも原則的にはカテーテル検査へのゲートキーパーだととらえています。

FFRで虚血が認められた例ではPCIで長期的に予後が改善される

横井 EURO PCR 2018ではFAME2試験の5年追跡調査の結果が発表され、FFRガイドによるPCI戦略は薬物療法単独と比べて5年間の複合エンドポイントの発生を有意に低下させたと報告されました。

松尾 虚血のある病変に対してはPCIを行った方が薬物療法よりも予後が良いということであり、長期的にもPCIの妥当性が証明されたわけです。

横井 FFR0.8以下の症例に限定するとPCIに一定の意義があるわけですが、FFRはプラークの脆弱性の評価にも関係があるとの指摘があります。この点はいかがですか。

松尾 FFRCTを用いてプラーク破裂のメカニズム解明を試みたEMERALD試験で、狭窄前後の圧較差が大きい病変は、プラークにかかるメカニカルストレスの高い病変だと示されました。圧較差は狭心症の重症度の目安でもありますが、FFRが低い場合、この圧較差によってプラークに強い力がかかっていることを示しています。FFR陽性病変は将来的に何らかのイベントを起こす可能性が高いのではないかと考えるべきでしょう。

横井 FFRはプラーク不安定性の予測にも使えるわけです。FFRが低い人ほどよりきちんとした治療が必要だということですね。

松尾 はい。

横井 SYNTAX-Ⅰ試験ではPCIの限界を感じるデータも報告されましたが、SYNTAX-Ⅱ試験の2年のフォローアップが発表になり、FFR-guide PCIはAngio-guide PCIよりも冠動脈疾患患者の予後が改善できるとの期待が高まりました。

松尾 SYNTAX-Ⅰ試験の結果からPCIは冠動脈バイパス術(CABG)には勝てないと言われていましたが、Angio-guide PCI群では50%以上の狭窄にはすべて第1世代薬剤溶出性ステントを入れる戦略だったわけです。しかし、SYNTAX-Ⅱ試験ではFFR-guide PCIによりAngio-guide PCIの予後を大きく改善できることが示されるとともに、最先端のPCIとは何かを明らかにしてCABGとの比較を試みています。SYNTAX-Ⅰ試験との違いは大きく4点あります。FFRで虚血病変が認められた症例のみに治療をする、IVUS(血管内超音波法)ガイド下でステントを最適化する、ガイドライン遵守薬物療法を行ってLDLを70以下に維持する、CTO(慢性完全閉塞病変)を開通させるということです。実はこの4つのコンポーネントは日本で目指しているPCIの王道そのものです。こうした戦略に沿ってPCIを行えばその予後はCABGとほぼ同等と考えられます。

PCI後にもFFR計測を行いステント拡張状態や残存病変を評価

横井 SYNTAX-Ⅱ試験をはじめ、最近、虚血診断に各種のresting index(安静時虚血指標)が導入されてきています。そのあたりの動向を教えていただけますか。

松尾 DEFINE-FLAIR試験ではiFRとFFRを比較しており、1年間の主要心血管イベント発生率でiFRはFFRに対して非劣性であることが証明されました。iFRは薬物負荷が必要ないというメリットがあります。さらに、これからRFRやdPRといった各社の安静時虚血指標も日本で使えるようになります。今後はresting indexとFFRをどう使い分けていくかが検討されていくでしょう。

横井 最近話題になっているPost-stent FFRについてはどのようにお考えですか。

松尾 Post-stent FFRが注目されている理由は、ステント留置後のFFRのデータと予後の関係が明らかになってきたからです。たとえば、Post-stent FFRが0.9を超える場合は予後がよく、0.8以下であれば心血管イベント発生の可能性が高くなるといった報告があります。治療後のFFR測定により、ステントの拡張状態や残存病変の影響なども評価できます。これまでFFRは治療前PCIの適用決定に有用だとは言われてきましたが、今後はPCIの術中や術後の指標としても役に立つ可能性が出てくると考えています。

横井 今回の診療報酬改定によって国が虚血評価の重要性を示したことは高く評価されます。われわれは虚血の解除というPCIの原点を再認識し、きちんとした虚血評価に基づいたPCIの最適化について議論を重ねていかなければなりません。本日は貴重なお話をありがとうございました。

松尾仁司


岐阜ハートセンター院長。
略歴:Johns Hopkins Medical Institutions核医学科リサーチフェロー、国保高鷲村診療所所長、岐阜県立岐阜病院循環器科主任医長、岐阜県総合医療センター救命救急部長兼循環器科主任医長、豊橋ハートセンター循環器科部長などを経て現在に至る。
資格等:医学博士、日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医・指導医、日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)評議員、日本循環器学会東海地方会評議員、日本心血管画像動態学会理事、日本心臓核医学会理事、日本内科学会、日本核医学会、日本心臓ペーシング・電気生理学会

横井宏佳


ももち浜福岡山王病院循環器センター長、国際医療福祉大学教授。
略歴:金沢大学第一内科、小倉記念病院循環器内科主任部長を経て現在に至る。
資格等:日本心血管インターベンション治療学会専門医、日本心臓リハビリテーション学会理事・心臓リハビリテーション指導士、浅大腿動脈ステントグラフト実施医、ベストドクター選出(2016-2017)