【試し読み】熊本大学大学院 辻田賢一先生INTREVIEW「今振り返るPRECISE-IVUS試験までの道のりと、血管内イメージングのこれから」

辻田賢一
(熊本大学大学院
生命科学研究部循環器内科学)

 PRECISE-IVUS試験において、脂質低下治療薬「スタチン」とコレステロール吸収阻害薬「エゼチミブ」の併用によって、より大きな脂質低下効果と冠動脈プラーク退縮効果が得られることを発見した辻田賢一氏(熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学)。若くして教授に就任されている氏に、これまでの苦労や経験、臨床上の心がけなどについて語って頂いた。

 

 

 

 

教授就任後は仕事が激変

インタビュアー
小船井光太郎
(弊誌編集委員)


小船井 辻田先生は42歳で熊本大学の教授に就任されましたが、ご自身の生活の中で大きく変わったことはございますか?いろいろと大変なことが多いかと思いますが、良い方向に変化したことなど教えてください。


辻田 就任前は自分自身の診療と研究に没頭する生活だったんですが、就任後は医局員及び同門会員の属する熊本県内外の関連施設における全体の診療バランスの調整、および医局全体の研究のマネージメントに仕事が激変しました。自分自身がカテ室に入り手技を行う時間や自分自身で研究を行う時間が減った事は残念ですが、一方で、特に医師不足地域の循環器地域医療に対する同門循環器医の献身的な取り組みには感謝でいっぱいです。
 また、学部学生に対する循環器教育、大学院学生に対する研究指導といった教
育業務のウエイトが増えました。就任前は苦手意識の強かった教育業務が、思いのほか楽しく重要である事を認識しているところです。

歩んできた道を振り返って

小船井 1998年にご卒業後、県内外の病院で研修されましたが、循環器内科、そして心血管インターベンションの道に進むことにしたのはどのようなきっかけや経緯があったのでしょうか。

辻田 学部生時代から急性心筋梗塞を救える循環器内科医になる事を決めていました。卒業後直ちに泰江弘文先生(初代教授)、小川久雄先生(第二代教授)が在籍していた循環器内科に入局、熊本労災病院、熊本赤十字病院での内科研修ののち、2000年から有数のカテーテル治療件数を誇った関連病院の福岡徳洲会病院循環器科に赴任しました。下村英紀先生(現同院副院長)、新井英和先生(現鹿屋ハートセンター院長)、松尾邦浩先生(現福岡大学筑紫病院准教授)、西川宏明先生(現福岡大学西新病院診療部長)にカテーテル、アブレーション、デバイス治療のイロハを伝授して頂きました。年間1000例超のPCIを約3〜4名のオペレーターでやっていましたので、2005年には日本循環器学会専門医、2006年には当時のJSIC専門医を取得しました。
 当時の経験から、1.カテーテル治療の臨床的有用性、低侵襲性、楽しさ、ダイナミズム、2.クオリティの高いPCIをスピーディに行う事の重要性、3.若いうちからPCIオペレーターを養成する必要性を痛感しています。当科では、ドンドン若い医師に積極的にカテーテル治療を経験させ、CVIT専門医を取得させています。
 また、構造的心疾患インターベンション(SHI)も重要な領域ですので、大学院卒業直後の若い医師をドイツボン大学に留学させ、最先端のSHIを習得させています。

小船井 その後2007年からはコロンビア大学で血管内イメージングの研究をされました。どのような内容の研究をされたのでしょうか?アメリカで研究留学をしてよかったこと、苦労されたことなどを教えてください。

辻田 IVUSラボ(Mintz研究室、前原晶子研究室)でDESのIVUS研究がひと段落着いたところで、新たな研究テーマとして、1.CTO PCIのIVUS画像、2.起始異常や心筋架橋のIVUS、3.AMI患者の貧血の予後への影響などに取り組みました。しかしこれらの研究業績、論文業績よりも、アメリカで、CRFで学んだIVUSコアラボのセットアップ、運営を肌で学べたことが重要でした。帰国後、IVUS研究を立ち上げるのに、この時の経験が本当に活きました。
 プライベートでは留学後のセットアップには苦労しましたが、日本では経験できない文化的な交流は自分の財産です。渡航時2歳だった長女も現地のKinderに通いましたが、あらゆる人種の中に身を置く事で、自然とダイバーシティを身に付けているように感じます。また、何よりアメリカで小船井光太郎先生、青木二郎先生、久保隆史先生、土井 宏先生、田端 実先生、後藤賢治先生と出会えたことが最大の財産です。

小船井 2016年には42歳で教授になられました。その際のお気持ちはどんなものでしたか。周りの方々の反応は?

辻田 えらいことになったなと。熊本大学循環器内科の実績、伝統を汚すわけにはいかないと。当初は焦りと義務感と責任感でいっぱいでした。~せねばという義務感が先に立ち、小川久雄前教授が成し遂げた業績をさらに発展させねばと、意気込んだわけですが、最近は、焦っても何も前に進まない、自分が成し遂げたものを周りの方はよく見ていて、結局のところは、医局からコツコツと1.診療の活性化、2.研究アウトプット、3.優秀な人材の育成をやって行く事が自分の使命だと、自分を納得させているこの頃です。

小船井 教授になる秘訣などありますか?

辻田 教授になる事、私自身はカテーテル治療のトレーニングをしている頃は想像もしなかったことですが、ふるさと熊本の循環器診療、研究を発展させるという究極の目標に向かって、同門医局員のみんなで取り組む、これは教授の醍醐味です。県内唯一の医学部で同門の皆が地域医療と研究の発展に一致団結しています。これは熊本の誇るべき特徴かもしれません。この目標を持ち続けている同門医師に心から感謝と敬意をいつも感じています。教授になる秘訣はいまだに分かりませんが、カテーテル治療に没頭していた私を、大学院へ、研究の道へ導いてくださった小川久雄前教授(現国立循環器病研究センター理事長)に感謝です。

関連病院間の連携強化は最重要課題

小船井 熊本大学循環器内科は、臨床を大切にし、また研究面でも大変な伝統と実績があります。そのチームをまとめていく中で、先生が気を付けていること、目指すものなどありますか?

辻田 関連病院との連携、団結です。県内のすべての循環器研修施設は当科の関連病院ですが、同門医師がさらに診療レベルを向上しようと日夜努力しています。この同門医師の不断の努力を大学でも痛切に感じますので、大学を中心にサポートしていきたいと思っています。私達「熊大循内」の診療と研究はこの関連病院全体の診療協力とデータ統合によって成り立っています。ですから、今後もこの関連病院間の連携強化、協力体制の強化は最重要課題と思っています。そのためにも、何より若い力、新入局員の確保と若手育成に取り組んでいます。本当に驚くスピードで若い力が育っており、高難易度PCIやSHIもドンドン若手が主術者を務めています。

小船井 熊本大学での臨床上でユニークな取り組みや、特に力を入れている治療はありますか?

辻田 カテーテル治療、SHIの導入です。コロンビア大学で目の当たりにしたTAVIをはじめとするSHIは、今後のカテーテル治療の中心を担います。「熊大循内」では、今後、熊本の、九州のカテーテル治療のメッカとなるべく、坂本憲治講師を中心にCTO PCIをはじめとする高難易度PCIに取り組んでいますし、先ほど述べましたようにSHI活性化のため、海外への留学生も派遣し続けます。もちろん、県内唯一の特定機能病院として、高潮征爾助教がLVADやImpella治療も導入しています。それから、山本英一郎診療講師が取り組んでいる腎デナベーションは日本一の治験症例登録数です。

小船井 同じく特に力を入れている研究や、成果など教えてください。

辻田 1つ目は海北幸一准教授が取り組んでいる総合的血栓形成指標のT-TASです。カテーテル治療後の抗血栓療法はトピックですが、安定した総合的な効果指標のない事が課題です。我々はT-TASを用いて、今後の抗凝固療法+抗血栓療法などの安全性、有効性を評価しています。2つ目は、有馬勇一郎助教、荒木智助教が取り組んでいる臨床と基礎のトランスレーショナル研究です。当科では、カテ時にAoとCSの同時サンプリングを伝統的に行っていますので、最近の心不全に対するSGLT2iの有効性のメカニズム研究などを推進しています。末田大輔特任助教の腫瘍循環器研究も成果をあげています。

小船井 若手のドクターに研究や論文執筆などどのように勧めているのでしょうか?

辻田 先に述べたようにドンドン難しいカテーテル治療を若手に経験させると同時に、難易度の高いカテーテル治療の中に課題や克服すべき臨床的限界を見つけ出すように指導しています。困難さがある以上、そこには臨床的未解決の問題点、課題、つまりは研究シーズがあるはずです。そのことをテーマに臨床研究プロジェクトを立案させ、解決を自身のデータベースあるいは既存のレジストリデータから解析させています。忙しい臨床の合間を縫って、よく解析、執筆してくれています。「アウトプットしなければ臨床医ではない。臨床に取り組む以上、課題があり、それを解決すべく取り組むのが臨床医である」との教室開設以来の伝統で、大学以外の関連病院からも論文が出ています。

続きはCATH LAB JIN春号(Vol.2 No.2)にて!

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